映画感想 [Revolution+1]

監督は足立正夫  公開は2022 9月  未完成版にもかかわらず、安倍晋三氏の国葬の開催時期に合わせて、上映イベントを行った(リンク先)。

足立正生監督作品「REVOLUTION+1」上映&トークイベント(渋谷)のチケット情報・予約・購入・販売|ライヴポケット

 

内容要約

 2022年7月8日、元総理大臣の安倍晋三氏が殺された事件があったのはまだ日に新しい。彼を殺した、山上哲也の生涯は常に、統一教会(世界平和統一家庭連合)に振り回されてきたものだったという。彼にとって統一教会とは何だったのか、そこからどのようにして安部暗殺に至ったのか、現在分かっている情報をもとに、脚色を加えながらまとめたのが本映画である。

 

 本編は、実際の犯行現場を撮った映像から始まる。ボディーガードに確保し、連行される。留置所に入れられた川上(劇中の山上)は雨音を耳にしながら幼少期を振り返る。

 川上の母は統一教会の信者だった。父親との離婚や、川上の兄の大手術をきっかけにして教会にのめりこんでいくようになる。信仰心の篤い母親は普段から教壇に多額の献金を行っていた。山上とその兄妹は、ほかの家族とは違った自宅の家庭の状況にずっと違和感を覚えていた。

 統一教会の復讐をすればいいのではないのか、いつそういう発想に思い立ったのかはわからない。大学進学をあきらめざるを得なくなったこと、海自に入るものの恨みがのこり睡眠薬過剰摂取の自殺未遂、ふつふつと気持ちが煮立ってていたのだろう。退院をしたころ、気づいたときには銃を製作しだしていた、統一教会安倍晋三らへの恨みつらみをぐちぐちと口にしながら。

 

 ある時ふとばったり自称革命家二世という隣人と話し込む。彼女の父親は家族を置きざりにして日本赤軍としてアラブへ向かっていったそうだ。そんな彼女の茶化すような語りとともに伝わる、革命的行為そのもののしょうもなさ。しかしいくら言っても川上は決意が揺らがない。最後に女は、そのままだとそのうちすべてを失うぞ、といいかける。

  

 そののちに兄の自殺の場面にうつる、金がなくなったから好きだった野球もできなくなり、自暴自棄になって協会本部を急襲する。そして獄中で首をつって自殺。はたから見れば、単なる狂人のそれである。

 次に川上は妹を呼び出す。犯行の計画を伝えようとするも、口に出るのはなんだ折り合いをつけて生きている妹への羨望とやるせない愚痴だけ。現実をうけいれたら?、と返される。いきがることしかできない川上である。しかしその裏にはさみしさもあるようなのだ。

 おそらく結構前夜なのか、実質で根気を込めた弾薬づくりをする。怪しげな体の動きは、体にまとわりつくような感情すべてを吐き出そうとするものだ。そしてそれらをすべて火薬にこめる。

 ここで映像は最初にもどる。事件が起きる。

 

 最後に事件の様子を部屋からスマホで見る妹のアップ。彼女のコメントが続く。私は私のやり方でやるよ、と。

 

全体の感想と事件の想像

 統一教会から受けた被害の実態というよりも、川上(山上)の苦悶といった内面的なものが多く描かれる。情報がそろっていないというので詳細に描けないというもあるのだろう。だが、このような身近で生々しい描写は、報道が提示する無機質な情報に、実体を与える。
 
 幼年期を除けば川上の立ち振る舞いには、一度たりとも、襲撃を逡巡するような場面はなかった。かといって、自分が正しいのだ、と信じているわけではない。ただ己の復讐心がために動いている。それでいったら、最も自分の心に正直であるわけだ。

 

 川上は二人に、自分の胸を打ち明けた。革命家二世の女にも、妹にも、協賛してもらうことは叶わなかったけれど、だともこのまま孤独であること、それをすでに受け入れているから、その程度ではへこたれない。山上が革命家二世の女の誘いを断ったときにでた「人と話すの、苦手なので」その言葉に尽きるだろう。他人がどうとか、統一教会の社会問題の重要性とかそういう問題ではなく、自分の心の問題でしかないというところに気づいていたのではないか。

 

 革命家二世の女には、誰でもいいから殺すんじゃなくて、ちゃんと相手を見据えて殺さなくてはいけないという風に諭された。実際、山上が安部を殺したのも、本当は教団幹部を殺そうとしたのに、安倍がたまたま近くで選挙の応援演説をしに来たからだった。教団をつぶそうと考えていたのではない、個人的な恨みなのである。

 

 だが、さかしまに考えれば、個人的な衝動からくるものだったということこそ、いかにして山上が追い込まれていたのかを思い立たせる。有名高校をでたり、銃を製作するなど、冷静な判断をする知能はあったのだ。それでも、計画を着々を立てるとか、社会を変えるとか広く考えることよりも、もっとどうしようもない衝動が彼の人生にずっとつきまとっていたのだろう。

 

 そういった意味で、今作品はドキュメンタリー、事実を正確に淡々と示すというよりは、感情的な契機をおおくもつ物語だ。われわれは川上に本当の意味で共感ということはできないのだろうが、彼の持っていただろう重さに向き合うということを損なってはならない。                    (2093字)